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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)39号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人荒地孝敏上告趣意書第一點は「原審裁判所ガ被告人ニ對シ傷害ノ事実ヲ認定シタルコトハ事実ノ真相ヲ誤リタル認定ナリ即チ被告人ハ武林勝次ヲ毆ッテ怪我ヲ與ヘタル點ハ被告人自身モ被害者タル武林ヨリ相當毆ラレタル事実アルヲ以テ若シ被告人ニ於テモ直チニ醫師ノ診斷ヲ受ケタリトセバ相當傷害事実ニ付キ診斷ヲ得ルモノト信ズ故ニ本件ノ場合ニ於テハ被害者ノミノ診斷書ニ依リ一方的ニ事実ヲ認定スベキモノニ非ズシテ被告人ノ受ケタル傷害事実ニ付キテモ考慮スベキモノトス依ッテ被告人ノ受ケタル傷害事実ヨリ推測スルモ本件被告人ノ傷害行爲ハ正ニ正當防衛行爲トシテ已ムヲ得ズシテ相手方ニ與ヘタル傷害ナリ然カルニ本件ハ事案ヲ一方的ニ之ヲ認メ以テ被告人ノ正當防衞行爲ノ點ヲ認メザルコトハ事実ノ認定ヲ誤リタルモノトス」というにある。

しかし、被告人の行爲が急迫不正の侵害に對し自己又は他人の權利を防衛するため已むを得ずして爲したものであるとの事実は原判決の認定しないところである。しかのみならず原審公判調書によれば被告人並にその辯護人の何れからも被告人の本件行爲が正當防衞に該るものであるとのことは何等主張してゐないので原判決が之に對し何等の判斷を示さなかったのは當然であって所論は結局原判決の事実誤認を主張するに歸するが日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十三條第二項によれば原判決には事実誤認があるとの主張は適法な上告理由とならないから論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

仍って刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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